emergency_homeAttention R-18

※未完放置作品です
ゾロ大好きなツンデレサンジに困惑しつつもちょっとエロいことをして最終的にはくっつくかもしれない話、の、客観的に見てゾロが落ちたなぁという感じのところまでです。
内容にはあまり関係ありませんが時系列はスリラーバークより後の想定です。

やわらかな侵蝕

 夜の海に浮かぶサニー号の展望室で、本日の見張り番であるゾロは月の映る水平線をぼんやり眺めていた。
 急な天候の変化に油断の出来ないグランドラインにおいても今夜の空模様は安定しており、異変が起こる様子も見られない穏やかな海に、夜のトレーニングを終え手頃なサイズのダンベルを手にベンチに腰掛けていたゾロはすっかり寛ぎムードだ。
 手持ち無沙汰の手慰みにダンベルを上下していると程よく小腹が空き始めたので、夜食を取りに行こうかと腰を上げようとした時、窓の外に丁度ダイニングから展望室に向かう金色頭が見えたので、そのまま夜食の到着を待つことにした。
 わざわざ赴かずとも待っていればこうしてサンジが届けに来るのだが、夜の見張りは何せ暇な時間が多い。暇つぶしも兼ねて、ぼーっとしているとうっかり寝落ちしてしまいそうになるゾロは自らダイニングへ取りに行くこともあるのだが、今日はサンジが届けに来る方が早かったようだ。

「夜食だ」
「おう」
 ほどなくして梯子を上ってきたサンジがひょっこりと顔を出した。
 差し出されたバスケットを受け取り、中身を確認するとおにぎりと漬物、そして酒も勿論入っている。
 さっそく小腹を満たそうとベンチに戻り酒瓶の栓を抜いていると、いつもなら渡す物を渡したらすぐに去っていくサンジが今日はそのまま展望室に上がり込んで来た。
 酒を煽りながら視線だけそれを追うと、サンジはゾロと目が合った途端柄にもなくそわそわと視線を彷徨わせたので、何か言い出し辛い用事でもあるのだろうか。だが普段ズゲズゲと物を言うどころか余計な悪態までデコレーションしてくる男が言葉を選ぶ用事など心当たりが無い。
 サンジの挙動が不審なのはいつものことなのだが、今はゾロとサンジしかいないこの空間でそんな遠慮がちな態度とる様には違和感しかない。
「何か用か」
 サンジは入り口付近に佇んだまま、ネクタイを外した白いシャツに黒のスラックスといったラフな恰好でポケットに手を突っ込み、何かを逡巡している様子でいたので、訝しんで用件を促すと、揺れた蒼い瞳が意を決したかのようにゾロを見据えた。
 おにぎりが待っているので用があるならさっさと済ませて欲しいのだが、何か真面目な話をしようとしている気配を察し、物珍しさにサンジが切り出すのを黙って待つことにした。
 
「あのよ、ゾロ……おれ、お前が好きだ」
「…ん?なんだって??」
 だがそうして出てきた言葉はあまりにも突拍子が無く、真面目に耳を傾けていたゾロは素っ頓狂な声を上げていた。
「おれお前が好きだ」
 律儀に同じ文言を繰り返すサンジなのだが、聞きたいのはそういうことではない。
 真面目な顔して何を言い出すかと思えば、結局そんなくだらない戯言…と切り捨てしまえるほどくだらない話なのかもよくわからない程度には理解に苦しむサンジの告白をどう受け止めて良いのかわからない。冗談は眉毛だけにして欲しいのだが、頭に疑問符を浮かべたゾロがサンジを凝視するも、その冗談みたいな眉毛をへちょりと下げてゾロの返答を待っているようなので頭の中がぐるぐるした。別にサンジの眉毛に目を回したわけではない。あれはもう見慣れている。
 日頃のサンジの態度からゾロはてっきり嫌われているか、そうでなくてもあまり好意的には見られていないと思っていたのだが、意外にもあれで好かれていたらしい、ということだけは辛うじて理解できた。
 ゾロとしてはサンジに嫌われていようが好かれていようが特に支障は無かったのだが、同じ船に乗る仲間同士いがみ合うより友好的であるにこしたことはない。日頃の態度を鑑みると素直に受け入れ難い部分もあるにはあるのだが、それがサンジの本音なのであれば喜ばしいことなのだと思う。
「…そうか、そりゃ、なによりだ?」
 なぜ改まってそんなことを伝えてきたのかはよくわからないが、とりあえず聞き取れましたの意で簡潔に返すと、ゾロの返答が意外だったのか僅かに目を見開いたサンジは、続けて口も開いた。
「…嫌じゃねェのか?」
「まァ悪い気はしてねェが」
 サンジに好意を向けられることが嫌かと問われれば、別に嫌な気持ちにはなっていなかったので素直にそう応えたのだが、そうやってゾロの好き嫌いを尋ねてくるサンジには益々違和感が募る。これでは落ち着いておにぎりが食べられない。食べさせるために作って運んできた本人にその本分を邪魔されていてはおにぎりも泣くだろう。ついでにゾロの腹の虫も鳴きそうだ。
「お前、」
 そろそろおにぎりを食べたかったゾロが口を開きかけると、躊躇いがちに歩み寄ってきたサンジの蒼い瞳がさっきよりも近い距離でゾロを見下ろしてきたので、思わず言葉を飲み込んだ。
「…どうした?」
 半ば気圧されながらも続けて疑問を口にしたのだが、同時に身を屈めたサンジが不意にゾロの頬に手を添えてきたので、意図の読めない接触に驚いてその手を払い除けてしまった。
「っおい、何だよ!?」
 慌ててサンジを見ると、一瞬酷く傷ついたような表情を見せたのでゾロは何だか悪いことをしたような気になった。料理人の命だと手を大切にしている姿が頭を過ぎる。だが、先にわけのわからない手を出して来たのはサンジの方なのだ。そう強く払ったわけではなかったし、この程度なら普段の喧嘩中にも良くあるレベル、暴力未満のソフトタッチでしかないのだから被害者ぶられる謂れはない。
 気を取り直してサンジを睨むが、困ったように眉を下げた違和感の塊を相手取るとどうにもやり辛いものがある。困らされているのはゾロの方なのだが、生憎ゾロの眉毛は曲線を描き辛い。仕方なく眉間に皺を寄せてサンジを見上げるのだが、弾かれた手と視線を控えめに彷徨わせていたサンジはその指先を自らの唇に着地させると頬をほんのりと赤く染め、とんでもないことを言い出した。
「…キスしていいか?」
「いやちょっと待て、お前の好きってそういう…」
「それ以外に何があるんだよ」
 確かに仲間として好ましく思っていることをわざわざ伝えてきたと考えるのは明らかにおかしいのだが、かといってそれ以外の何かがある可能性を考えるのもまた同じ程度にはおかしい話なのだ。
 サンジが無類の女好きなことは自他共に認める事実なわけで、特別な接触を伴う好意を、どこからどう見ても男の中の男であるゾロに向けるなどと普通は思わない。色恋とは無縁の人生を送ってきた大剣豪街道一直線のゾロでなくてもちょいと頭を捻るレベルの難問だろう。ゾロが絶句するのも無理はない。
 そこのところ本人の認識はどうなっているのだろうかと、軽く頭を抱えていたゾロが顔を上げると、サンジはきまり悪そうに唇をへの字に曲げてゾロを見下ろしている。サンジに見下ろされているとどうにも腹の虫が騒いでいけない。
「女好きの癖になんで、とか思ってんだろ。おれだって自分が男に惚れちまうなんて思ってなかっけどよ、お前に惚れちまったんだよ。おれにとっても珍事中の珍事、青天の霹靂ってやつ。だからそこはなんでとか聞くなよ。おれだってわかんねェんだから」
 ゾロが疑問を口にするより先にサンジの口が回って先手を打たれてしまったので、その疑問は飲み込む他なかった。出題者も正解を知らないならどうしようもない。
 そもそも日頃から不可解な言動の多いサンジなのだ。多少おかしいところがあったところで、その思考回路や因果関係を理解しようとするだけ無駄なことをゾロは既に学習している。大抵の事は話半分に聞き流して適当におちょくる程度が丁度良い距離感のはずだったのだが、厄介なことに今サンジは真正面からゾロにその無理難題を解かせようとしてきている。
「で、していい?キス…」
 これがもし、タチの悪い嫌がらせでふざけた素振りでも見せようもんなら、うるせェ黙れ、わけわかんねェこと言うなと一蹴してしまえるものなのだが、今日のサンジに嘘や冗談の色は感じられない。それどころかいちいちゾロの反応を気にするような態度はどこか臆病で謙虚な印象さえ受けるのだから始末が悪い。
 例え反りが合わない相手でも真面目に話をしようと言うなら相応の姿勢で向き合うべきだと思うゾロなのだが、色恋などという全くの専門外の話題とこんなサンジを相手に一体どんな姿勢で向き合えというのか。
「…よくわからねェが、そういうことは惚れたモン同士がすることなんじゃねェのか?」
「だから、お前に惚れてるからおれはしてェんだけど…」
「おれは別にお前に惚れてねェ」
「だよなァ」
 言外に拒絶を示したゾロの答えに、サンジは「初めからわかってたさ」とでも言うような投げやりな言葉を零し一見あっさり引き下がったようなのだが、徐にゾロの隣に腰を降ろすとポケットから取り出した煙草に火をつけ始めたので、どうやらまだこの場に居座る気らしい。
 要求を拒否された以上、もう用はないはずなのだから出来ればとっとと出て行って欲しかったのだが、もしかしてキスのために煙草を我慢していたのだろうか。そういえばゾロもおにぎりを我慢していた。
「……まだ何かあんのか」
「んー?」
 つい数分前まではゾロの寛ぎスペースだった空間に他人の気配がある居心地の悪さに堪らず声をかけると、長い前髪に隠れて表情の伺えないサンジは気だるげに口を開いた。
「おれがここにいたら何か不都合でもあんのか?別にお前の部屋ってわけじゃねェだろ」
 そう言われてしまえばそうなのだが、キッチンがサンジの領域であるように、ジムを兼ねた展望室はほとんどゾロの領域となっている。高く隔離された空間には特別用事でもなければやってくるクルーはあまりいない。
 縄張りを主張する気はないが、実質自室と化しているこの場で誰かと、それもいつも以上に厄介なサンジと静かに時を共有するのはどうにも尻の座りが悪い。
 夜番の任を放棄するわけにはいかないゾロには生憎この場を去る選択肢は無いのだが、サンジに出て行ってもらおうにも追い出す理由も生憎とない。さすがに甲板に突き落とす程切羽詰っちゃいないし、そこまで非情にもなれない。
「別に不都合ってほどでもねェが……気味悪いぞてめェ、一体何が目的だ?」
 サンジがここに訪れてから湧き出た疑問を一つ一つ解きほぐそうにもゾロの頭にはキャパオーバーだったので、随分とざっくりとした質問にはなったが、結局サンジは何がしたいのか率直な感想を投げかけてみた。
「言っただろ、お前が好きだって。キスしてェって。でもダメなんだろ」
「だったらもう用はねェだろ」
「隣にいてェんだよ。一本吸ったら出てくから、そのくらい良いだろ?」
 ぼんやりと紫煙を燻らせていたサンジは顔だけをゾロに向け、一応ゾロの意向を尋ねてはくるが、どっかりとベンチに座って慣れた調子で一服を決め込む様はゾロが追い出そうとすることを想定しているようには見えない。実際、ダメだと言うつもりも無いのだが。何も言わないゾロの態度を肯定と受け止めたのか、サンジは前に向き直るとわざとらしいくらいゆっくりと煙草をふかし始めたので、ゾロも仕方なくサンジを隣に置いたまま酒を煽った。口に広がるラムの味が渇いた喉を湿らせ、アルコールが染み渡る感覚に自然と溜息が漏れる。
「なんなんだよ急に……」
「急じゃねェよ」
 独り言のように零れたゾロの声は、サンジの耳に届いていたらしい。掬い上げられたように顔を上げるが、相変わらずその横顔に表情は伺えない。サンジは静かに言葉を続ける。
「おれにとっちゃ全く急じゃねェ…ずっと…多分、お前に初めて会ったあの日から、ずっとお前が好きだった」
 それは煙と共に当て所も無く吐き出されたようでもあったが、やけにはっきりとした輪郭を持ってゾロの耳に響いた。
 初めて会ったあの日。海の真ん中に浮かぶ間の抜けた魚の船首を持つレストランで、大敗を期した苦い記憶を思い出す。世界の遠さを思い知り、当時はただのレストラン従業員であったサンジのことなど当然のように意識の外だった。傷を負った身体を抱え、流されるまま先行したゾロを後から追ってきたルフィの隣にサンジがいて、確かあの時もくだらないことで小競り合いをしたような気がする。アーロンパークで初めて肩を並べて戦い、見た目から受ける印象よりずっとタフで熱い男だと知った。村を上げて盛大に行なわれた宴の席でまともに会話をして……何を話したかは覚えていないが、そこでようやくこれからこの男も夢の旅路を共にするのだという実感が湧いた気がする。あれからそれほど時は経っていない筈なのに、随分と昔の事のように思う。それだけ充実した日々を過ごしてきたのだろう。
 サンジの言い分ではその時からゾロに惚れていたと言うことになるのだが、こうして思い返してみてもやはりにわかには信じがたかった。当時からサンジのゾロに対する態度は一貫して小憎たらしいものだったし、サンジが「好きだ」「惚れた」と口にするときは大袈裟なほどわかりやすく逆上せ上がっているのが常だが、これまでゾロに対してそんな態度を見せたことは一度も無い。あったとしたら今頃とっくに切り捨てている。
「…だがお前、全然そんな風じゃなかったろ……」
「そりゃおめェ…レディにしてるみたくメロリンしてたらおめェだってヤだろ」
「それはさすがに勘弁願いたい」
 想像するだけも鬱陶しいことこの上ない。
 恋がどうとか愛がなんだと謳いながら女に過剰反応する姿はゾロがサンジを「わけのわからないアホ」と評する最大の要因なのだが、それをゾロが嫌がると思っている、ということは本人もわかってアレをやっているのだろうか。だとしたらお前は本当にそれでいいのかと問いただしたくもなるのだが、それは今すべきことではないし、これ以上わけのわからないことを言われても処理しきれない。
「おれはさ、恋しちまったら吐き出さねェと気が済まねェんだよ。溜め込んじまうと腹ン中がもやもやして気持ち悪ィんだ。美しいレディに対しては、まァありゃ条件反射みてェなもんなんだが…綺麗なモンは愛でたくなるだろ?好きだーって全身で表現したくなるし、それがどんなに素晴らしいものかって讃えたくもなる。でも今度ばかりは…相手がお前だろ?さすがによ、おれだって男に惚れちまったなんて初めは認めたくなかったし…やっぱ変だろ、男が男をそーいう目で見てるなんてよ。大っぴらにすることじゃねェ」
 男に男が惚れるのが変でも、女に対する変な態度はいいのだろうか。サンジの基準はゾロにはやっぱりよくわからない。
 話の内容もいまいちピンと来ないところもあるのだが、取り留めなくも淡々と語り出したサンジの声は意外と耳に心地よく、こうして自ら解説してくれるならわからないことばかりだったサンジのことも少しは理解できるようになる気もしたので、ゾロは黙って耳を傾けていた。
「だからまァ、お前に対するモヤっとしたもんは喧嘩で発散してたんだよ。そうしてりゃお前もおれを見てくれるし…それはそれで楽しかったしな」
 でも、とサンジはそこで言葉を止め、ふうと煙を吐く。
 サンジの話を酒の肴にちびちびと飲み進めていたゾロもそこでふとサンジを見ると、サンジも顔を上げてゾロを見たので、視線に射抜かれたように心臓がどきりと跳ねた。
 サンジの強い意志の宿る瞳が、ゾロは嫌いではなかった。だが今は少しばかり雲行きが怪しい。
「それだけじゃ全然、足りなくて」
 急に温度が変わったような気配にじんわりと汗が滲む。
「身体が疼くんだよ」
 短くなった煙草をもみ消したサンジがゾロに向き直る。
「なァ、キスはしなくてもいいから、身体だけ貸してくんねェかな……お前は、別におれの事好きになんなくていいし、何もしなくていいから」
 眩暈がしそうだった。
 いくら色恋に疎いゾロとは言え性的な知識が全く無いわけではない。性欲も人並みにある。だからサンジの言う身体だけ貸す、の意味くらいわかる。わかるのだが、まさかそこまでのことをサンジが望んでいるとは今の今まで思ってもみなかった。サンジの抱える想いさえ今日知ったばかりなのだからそれも当然なのだが、それにしたってこの展開は想定外にもほどがある。やはり先ほど無理矢理にでも追い出しておくべきだったと思ったが、後悔先に立たず。
 縋るようにゾロを見詰めるサンジは、抱え込んでいた想いを曝け出したことで感情が昂ぶったのか、言葉に窮するゾロを他所にずいと身を乗り出してきたので咄嗟にその両肩を掴んで押し留めた。
「おい待て…!」
 その拍子に既に空になっていた酒瓶が鉄の床に転がり鈍い音を立てたが、最早そんなこと気にしている場合ではない。
 もしサンジがゾロを無理矢理押し倒そうものなら力ずくで取り押さえるのは難しいことではない。いくらサンジが戦うコックさんを自称し、戦闘においてその実力を如何なく発揮しようとも、あくまでコックはコック。最強を目指して日々鍛錬を重ねるゾロが刀を置いたところで負ける気はしていないし、負けるわけにはいかない。そしてそれは、何かとゾロに張り合ってくるサンジも同じだと思っていた。純粋な筋力に差があることをわかっていながらも、臆することなく力強い瞳を向け持ち前の気性の激しさでぶつかってくるサンジを、ゾロは表には出さないまでも好意的に受け止めていた。どこかで格上の親友に挑み続けた幼き日の自分と重ねて見ていたのかもしれない。そこに驕りや侮りはない。油断をすればすぐに上下が逆転してしまう、そんな対等な関係。
 だが今は状況が違う。日頃から愛だの恋だの口にし色事に慣れているのであろうサンジに対し、経験値の低いゾロは明らかに不利な立場だ。何もしなくていいと言われても、このままサンジに主導権を握られて事を運ばれては堪ったもんじゃない。
「お前に抱かれてェんだ」
 そしてそんな要求をされたところでそう簡単に頭も体も受け入れられるわけがないのだが。
 思いがけぬ方向にすっ飛んでいったサンジの追撃にゾロの意識もすっ飛んでいきそうになったがなんとか堪えて踏み止まった。
 唖然とするゾロを見据えた瞳は蒼く燃え、チリチリと焼き付くような視線に思わず目を逸らしてしまった。シャツ越しに掴んだ肩の熱が伝わり、身体の輪郭をやけに生々しく感じる。押さえた手を離すとサンジは静かに身を引いたので一先ず安堵した。
「いや…そう言われてもな…」
「お前は何もしなくていいって」
「そういうことじゃねェよ」
「…まァそうだよな…やっぱ気味悪ィよな、こんなの」
「そうじゃねェ、勝手に話進めんな!」
 気味が悪いとか悪くないとか以前の問題なのだが、勝手に結論付けて自虐的な言葉を吐くサンジが癪に障り、ゾロが少し語気を荒げると、サンジは叱られた子供のようにびくりと肩を震わせ真ん丸く目を見開いた。わけわからないことを仕掛けてくるくせに退く時はさっと退いてしおらしくされるとイチイチ調子が狂うのでやめて欲しいのだが、イチイチそうさせているのはゾロの方なのでどうしようもない。
「…だいたい抱かれてェって何なんだよ、てめェは男だろうが」
「しょーがねェだろそれは、お前とエロいことしてェんだよ。じゃなにか?おれがおめェを抱きたいっつったら抱かせてくれんのか?」
「アホかてめェ、抱かせるわけねェだろ!」
「だろ?おれだってそれはなんかしっくり来ねェっつーか…その方が都合がいいっつーか…いや、おめェがそっちの方が良いってんなら話は別だけどよ…」
「ふざけんなコラ、おれがてめェの下に回るなるなんざ御免だ」
「だから抱かれてェって言ってんだろおれは。それにお前、抱かれる側が下だと思ったら大違いだぜ」
「だったら何もしなくて良いってのは、つまりどういうことだよ?」
「だから…そのくらい言わなくてもわかれよ…」
「わかるかバカ、ちゃんと言葉にしねェとわからねェ」
「わかった、なら単刀直入に言ってやるよ。てめェのチンポ貸してくれっつってんだ」
「おっ…」
「そんで…とりあえずしゃぶらせてくれ」
「お、おお…」
 自分で言葉にしろと言ったはいいが、サンジの口から飛び出したストレートな要求にまた面食らってしまった。
 その「おお」は「マジか」の意味の「おお」であって「よし来い」の意味では決して無かったのだが、勢いに気圧されて口を出た言葉を肯定と取ったのか、ゾロが怯んだ隙にサンジは再び身を乗り出してきた。横から伸びてきた手が太股に触れぎくりと身が震える。
「それ以上のことはしねェからよ…。お前だって溜まるモンは溜まンだろ?それを他人の手で処理するだけだ。それにお前、据え膳食わぬは男の恥って言葉知らねェのか?」
「お前のどこが据え膳だよ」
「まァ据えられちゃいねェが、てめェに抱かれてェっつってんだ。男としちゃ名誉なこったろ。それを食わねェってんならそりゃ、男の恥になんじゃねェの」
 先ほどまでのしおらしい態度はどこへやら、いつもの軽口を叩く調子で回り出したサンジの口車はゾロのプライドをチクチクと刺激してくる。この男は元々こういう男なのだ。マユゲのようにぐるぐると頭が回って口も回る(ついでに体も回る)、粗暴で気位が高く、生意気な男。だからこそ目まぐるしいその変わり様にくらくらするのだ。
「お前……本気で言ってんのか?」
「おれは端から本気だぜ。わかってんだろ、お前だって。だから茶化さねェでちゃんと話聞いてくれたし、理解しようとしてくれたんだろ。お前はずっと、なにわけわかんねェこと言ってんだこいつ、ってツラしてたけどな」
 正確にはあまりのことに頭を追いつかせることが精一杯だっただけなのだが、あえて否定するほど間違ってもいない、というより概ね正解だ。ゾロはそれほど思っていることが顔に出る自覚はなかったのだが、サンジは人の心が読めるのだろうか。だが見透かされた心境を素直に肯定してしまうのは心の乱れを自白するようで悔しかったので、口を噤んでジロリと睨むと、サンジは少し照れくさそうに
「ま、そういう顔も好きなんだけどな」
 と呟いて柔らかく笑ったので、ゾロの心臓のあたりにじんわりと温かく締め付けられたような感覚がした。
「やってみてダメだったらそれで諦める。…それともお前、敵前逃亡すんのか?」
 挑発的にニヤリと笑うサンジの瞳には熱が宿っている。その熱がいつだってゾロの感情を煽り、乱すのだ。
 売られた喧嘩を買うまでのこと。それに、据え膳を食わなかった上に敵前逃亡した恥ずべき男などという二重に不名誉なレッテルを貼られるわけにはいないのだ。
「……勃つかどうかわかんねェぞ」

 ぶっきらぼうに告げられた開戦の合図に、サンジは驚いたように目を見開いてみせたが、すぐにそれをすっと細めて口元を緩めた。自分から持ちかけておいていちいちそんな顔するな、と思うのだが、太股に置かれていたサンジの手がゾロの股間を撫でたので自然と意識を奪われる。
「おめェは余計なこと考えないで楽にしてろよ。気色悪かったらぶっ飛ばしてでも止めりゃいいし、おれにされてんのが気になんなら目でも瞑っといてくれ」
 サンジはそう言うが、他人に急所を握りこまれいる状況で無防備にしていられるゾロではない。それにサンジがどんな顔してそれをするのか、興味を擽られないわけでもない。むしろ結構気になる。
 撫でるような力加減で揉まれる感覚をズボン越しに感じながら、観察するようにその顔を眺めていると、視線に気付いたサンジはぱっと目を伏せ、白い頬をほんのり色付かせる。
「目、閉じねェのかよ…ま、いいけどよ…あんま見んなよ、恥ずかしいだろ…」
「てめェで始めたくせによく言うぜ」
 呆れたようにゾロが言うと、サンジは拗ねたように唇を尖らせ、返事の変わりにするりと下着の中に手を差し込んできた。サンジの長い指が直にゾロの中心に触れ、ひんやりとした手に全体を包み込まれる。普段他人に触れられることの無い場所に感じる新鮮な感覚に少しばかりの気恥ずかしさを覚えたが、ここで動じては負けのような気がするので身じろいだ拍子にふんぞり返って腕を組んだ。
 サンジはしばらく反応を確かめるようにズボンの中でもぞもぞと手を動かしていたが、刺激を与えられれば弥が上にも身体は反応するもので、ゾロの中心が僅かに芯を持ち始めると一度手を引っ込め、ベンチを降りてゾロの正面に回った。脚の間に膝立ちで座り、低い位置からチラリとゾロを見上げると改めて股間に手を伸ばす。
「やっぱお前目瞑っとけ、ちゃんと勃たなかったら困ンだろ」
「別におれは困ンねェよ。そこまで指図される筋合いはねェ」
「…じゃお前、なにがなんでも勃たせろよ。気合い入れて勃起しろ」
「その保証はできねェな。何もしなくていいんだろ、おれは。てめェでなんとかしてみろ」
 黙っていると落ち着かないのか、無駄口を叩きながらもサンジがゾロのズボンの前を寛げると、熱を持ち始めていたそれがひやりとした空気に触れた。
 サンジは目前に現れたそれをまじまじと凝視していたが、やがて絡めた指をそろそろと動かし始める。
 ゾロのふてぶてしく開いた脚の間で、普段は料理を作るサンジの手が今はゾロの性器を握っている光景はなかなかに奇妙だったが、サンジに見下ろされているよりはずっと据わりが良い。正面からサンジを見下ろすと一層濃く赤を増した頬の色付きが良く見えた。視線を下げると胸元に覗く白い肌がやけに眩しく映る。
「やっぱでけェな…平常時でこれかよ…クソッ」
 ゆるゆるとゾロを扱きながら独り言のように呟くサンジの声色はなぜだか嬉しそうにも聞こえ、野郎のブツを扱いて一体何がそんなに楽しいのかゾロにはよくわからなかったが、最後の悪態は頭の中で自分のモノと比べたのだろうか。サンジのそれをゾロはどこかで見たことあるような気がしたが、たいして印象に残っていないということはその程度のモノなのだろう。優越感を覚えて軽く鼻を鳴らすとサンジが睨んできたが、こんな状況ではその視線に煽られるのは劣情だけだ。
「ははっ、お前のチン毛、緑」
「…ッ、イチイチ感想を述べるな」
 空いた手で根元の茂みを撫でられ、仕返しとばかりにサンジは顔を上げニヤリと笑う。見慣れたはずのその表情も、徒っぽく弧を描いた口元からチラリと舌をのぞかせ唇を濡らす仕草が、今からこの口で舐めるぞと主張しているようでいやに扇情的に見える。
 つくづく人を煽るのが上手い野郎だと思う。視覚から得る興奮と施される緩やかな刺激に、ゾロの中心は次第に体積を増していったが、上下に動くサンジの手の刺激は遠慮でもしているのか、ゾロが自らを慰めるときより数段弱く、少し物足りない。
「…ぶっ飛ばすなら今のうちだぞ。咥えてからじゃ、噛み千切っちまうかも…」
「アホ、萎えるようなこと言うな!……残念ながらぶっ飛ばす気にはなってねェよ。するなら早くしろ。おれの気が変わらねェうちにな」
 ぶっ飛ばすどころか更なる刺激を求め出していたゾロが続きを促すと、サンジは「わかった」と一言呟き、意を決したようにゆっくりと上体をかがめた。緩く勃ち上がったそこに熱い息がかかり、ゾクリとした感覚が背中を這う。だがそこでサンジはたじろいだように動きを止め、僅かに顔を顰めてゾロを見上げた。
「お前…風呂入ってねェだろ…」
「…昨日は入った。まァさっきまで筋トレしてたからな…」
 サンジの言わんとしていることはわかる。だがこんなことになろうとは思ってもいなかったのだからゾロに落ち度は無い。サンジには度々口うるさく「風呂に入れ」とは言われていたが、ゾロだってきっと事前にこんな行為に及ぶことがわかっていたら身を清めるくらいはしただろう。
 さすがにこれは無理だと言い出すのではないかとサンジの出方を伺ってみるが、ごくりと喉を動かしたサンジは躊躇いがちにも唇を寄せてきたので、一瞬ゾロの方が怯んでしまった。ゾロとしてもここで止めらてしまったら風呂に入らなかったことを少しだけ後悔しそうだったので、続けてくれるのは良かったのだが、ほんの少し申し訳なく思うと同時によくそんなものを口に入れる気になるなという気持ちにもなった。
「…臭くねェのか」
「臭ェよバカ、だから風呂入れっつってんのに…ったく」
 聞き慣れた小言も熱を孕んだ声色で発されると全く違う印象を受けるのが不思議なもので、ゾロはいつものように「うるせェよ」と返す気にはならず、黙ってサンジの行為を受け入れた。
 柔らかい唇の感触が先端に降り、ちゅ、ちゅと音を立て軽く吸われると、言いようの無い鮮烈な感覚がゾロの身を震わせた。思わず腰が引けそうになったが、サンジはそれに気を止める様子も無く、赤い舌を覗かせてチロリと先端を舐めたので、急速に熱が集まるのを感じた。
 サンジの赤く濡れた舌は始めこそたどたどしくもどかしい刺激を与えていたが、次第に大胆さを増し全体を使って舐め上げられるようになると、亀頭から竿へと這い巡り丹念に全身を濡らしていく。熱く湿った舌がぬめぬめとまとわりつく感覚はこそばゆくも確実に快楽を呼び起こし、息が弾んだ。
「ん…いけそうだな」
 あえて確かめるまでも無く、ゾロのそれは完全に勃ち上がっていた。
 乱れた息遣いに興奮の色を滲ませるサンジは視線だけちらりとゾロを見上げると、躊躇うことなくぱくりと亀頭を口に含み、軽く吸い付かれる感覚に堪らず声が漏れた。
「…ッく…」
 そのまま一気に口の中へ咥え込まれ、舌を絡みつかせながら上下に頭を動かし出す。膨張しきったゾロの男根はサンジの口には収まりきらなかったが、余った根元には添えられた手がゆるゆると刺激を与えてくる。
 サンジの口内の熱に包まれ唇と舌で愛撫されながら、根元を扱かれ、軽く玉を揉まれ、余すところ無く隅々まで丁寧に与えられる刺激は、手でされていたときよりもずっと強い快感を呼んだ。時折チラチラとゾロを見上げる蒼い瞳と、息継ぎをするように漏れる吐息もまた抗いたくゾロの情欲を煽った。
 たまに歯の当たる感覚にきごちなさを感じながらも、強烈に全身を駆け巡る感覚に急き立てられ思いの外早く達してしまいそうだ。
「お前、したことあんのか…?」
「…ねェよ…っ、」
「にしては、慣れてんじゃねェか…」
 ゾロの股間で上下に動くサンジの頭に声をかけると、上目遣いに視線を向けるサンジはゾロのものを口に含んだまま隙間から受け答えをしていたが、それでは話し辛いようで一度口を離して顔を上げ、
「いっぱいいっぱいだから、話しかけんな、バカ」
 キッと睨みつけてはそんな悪態を吐き、再び顔を下ろしたが、その表情にいつもの迫力は当然のようにない。言葉の通り本当にいっぱいいっぱいなのだろうが、そう口にする割には巧にゾロを刺激するので込み上げてくる快楽を吐き出したくなる。
「おい…っ、出そうだ」
「ン…だして」
 無言で出すのも気が引けたので一言声をかけると、サンジは息継ぎの隙に喘ぐように短くくぐもった声を返し、それを促すように動きを早めてくる。
 ゾクゾク駆け上る感覚に堪らずサンジの頭を掴み、自ら腰を動かすと勢い良くサンジの口内に解き放った。

 ドクドクと脈打つ感覚はいつもより長く続き、早まる鼓動を耳の奥に聞きながら天井を見上げていたゾロは、全てを出し切ったかというところでぼんやりとサンジを見下ろす。
 最後まで搾り取るかのように顔を埋めていたサンジは、しばらくして名残惜しげに顔を離すと、先ほどまで見えなかった表情は恍惚とした色に染まり、肩で息をしながらとろりとした目でゾロを見つめた。
 ゾロの欲を受け止めた唇は薄っすらと開かれ、こくりと喉が動いたので、口の中に吐き出したものを飲み込んだのだと気付く。
 飲みきれず溢れた白濁が口端に垂れ、思わずそこに手を伸ばし親指で拭うと、サンジの身体がぴくりと跳ねてその手を掴んだかと思うと、徐に拭った親指をちゅぷりと咥え、まだ足りないとでも言うかのようにもったいぶった動きでねっとりと舐め上げた。あまりにも艶かしく、スローモーションのように映ったそれをゾロはしばし呆然と見つめていた。
「おい…」
「残したら、勿体無ェだろ…」
「こんなもん食いモンじゃねェぞ」
「でも、お前がくれたモンだ」
 さも大切なものを貰ったかのように言ってのけるサンジに、ゾロは返す言葉がなかった。ただサンジによって齎された快楽で生理的に吐き出されただけのそれにどれ程の価値があるというのか。
「…思ったより早かったじゃねェか。結構良かったか?」
「まァな…」
 射精後の虚無感の残る頭でぼんやりと応えると、サンジは「いっぱい出たしな」と笑ったので、なんとなくその頭を撫でたい気分になった。未だゾロの足の間にある丸い頭に手を伸ばすと、改めて触れたサンジの髪は絡まる指の隙間をさらりと滑り、柔らかく心地の良い感触をしばらく弄んでいたくなった。
 ゾロの手が髪を撫でるとサンジは一瞬ビクリと身を震わせ動きを止めたが、すぐに辺りを見渡し、ゾロがトレーニング後に汗を拭いたまま置きっ放しにしていたタオルを手繰る。自らの唾液で濡らしたゾロの一物を丁寧にふき取り、未だ余韻に浸るゾロを余所にてきぱきと乱れを直していく。
 そうしてあっという間に何事もなかった状態に戻ると、徐に立ち上がったサンジはさっと踵を返した。
「おい、」
 宣言通りそれ以上の事をする素振りも見せずその場を立ち去ろうとするサンジを咄嗟に呼び止めようとしたが、サンジは半身だけゾロを振り返り、
「また、気が向いたら身体、貸してくれよ」
 と一言だけ残すと、呆気なく展望室を降りていった。
 引き止める言葉も理由も、ゾロにはなかった。

 静かに去った背中を呆然と見送った後、なんとなく気になって窓の外のサンジの姿を追った。
 ここに来た時と同じように金色頭が夜の闇にぼんやりと浮かび、心なしか足早にダイニングに入っていく。点けっ放しになっていた灯りを消してすぐに出てくるかと思ったが、しばらく眺めていてもサンジが出てくる様子は無い。夜も更けた時間にまだやり残した仕事でもあったのだろうかと思い、そのままぼうっと待っていると、ゾロが微睡み掛けて来た頃ようやくダイニングの明かりが消え、出てきたサンジが男部屋に入って行ったので、さすがにもう寝るのだろう。甲板上にそれ以降動きは見られなかったので、そこでようやく展望室にも静寂が訪れた気がした。

 ガランとした展望室を見渡す。眠気覚ましに再びダンベルを手にしようとしたが、ベンチの上に置きっぱなしだった夜食が目に入り、小腹を空いていたことを思い出しておにぎりを手にした。届けられた時にはきっと温かかったであろうおにぎりはもう冷えていたが、程よく塩気がきいた白米の味はゾロの舌と腹を十分に満たした。
 サンジのあの手が握ったおにぎりなのだと思うと不思議な感じがしたが、それが嫌悪感ではないのがまた不思議だった。
 今は穏やかな海が立てる波音のみが響く展望室に、嵐のように訪れた先ほどまでの熱と匂いが仄かに残っている。
 何もしなくて言い、とサンジが言った通りにゾロは何もすることなく終わった。結局サンジの口車に乗せられ、されるがままにことが進んでしまったが、本当にこれでよかったのだろうか。
 お前が好きだ。キスしたい。お前に抱かれたい。お前は何もしなくて良い。気が向いたら身体を貸して。サンジの言葉だけが宙に浮かんでいるようで、もうそこにはゾロしかいないのに、何故だか妙な居心地の悪さを感じてならない。
 一方的にするだけして自らには触れることも無かった行為はサンジの口にした願望からは程遠いように思え、一連の行動はより謎を深めるばかりなのだが、一方サンジは度々ゾロの事を解っているような口ぶりだったのが、思い返して今更ながら腹が立って来た。そういうところが癇に障るのだ。
 サンジはゾロが好きだと言い、好きにならなくて良いというが、言われるまでも無くゾロにとってサンジはやはりわけのわからないアホコックに変わりなく、サンジのように「抱かれたい」などという男のプライドを捨てた願望を抱くことは万が一にもありえない。勿論、アホ面晒してメロリンすることもない。頭のネジでも外れない限り。

 近付いたサンジの髪からはシャンプーの匂いがしていた。
 ここを訪れる前に風呂に入ってきたのだとしたら、もしゾロがサンジの欲を受け入れたら本当に抱かれるつもりだったのだろうかと思うと、しどけなく組み敷かれるサンジの痴態が頭を過ぎり、身体の芯が仄かに熱くなった。