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ゾロ→(←)サン気味の主に舐めるプレイ。9割方ゾロが獣扱い。
挿入なし、手コキのみで乳首も尻もノータッチな上服も脱いでいない程度のエロ話です。

触りたいから手を伸ばす

 ロロノア・ゾロという男は本能に忠実だった。
 世界一の大剣豪を夢見るその男は死をも恐れぬ信念を胸に、夢に向って一直線、不要な物は切り捨て、脇目も振らず、日々弛まぬ努力を重ねる大変ストイックな武士道精神の持ち主だ。
 ひょんなことから海賊となった彼の日常といえば、寝たいときに寝たいだけ寝て英気を養い、腹が減れば飯を強請って血肉とし、飲みたいときに酒を強請って心を癒す。勿論鍛錬を欠かすことは無い。
 飲食に関わる自由がコントロールされているのは、船上生活における食事管理の一切をコックが担っているからだが、それがなければ好きなときに好きなだけ飲み、食い、そして寝る。
 たまに航海士にアゴで使われる様や船長に従う様子も伺えたが、本能的に生きる野生動物だって集団行動を行なえばそれなりの秩序を保つように、彼なりに仲間という存在を意識しての行動である。



「…おい…こりゃ一体なんのつもりだ」
 サンジは戸惑っていた。

 そんな野生児ロロノア・ゾロと、今まさに酒を強請られたサンジは寝食を共にする仲間でありながら、折り合いが悪いのは言わずと知れたことであるが、目当ての酒の入手を阻止されたことを発端にあわや一触即発かという空気の中、ゾロが伸ばした手は何故かサンジの頬を撫でていた。
 サンジの問いかけにもゾロは表情を崩すこともなく、やわやわと、まるでその感触を確かめるかのように指を動かすばかりで、持ち前の眼光鋭い仏頂面と逞しく鍛え上げられた肉体には凡そ不釣合いなその行為に、サンジは一体どう反応していいのかわからない。

 なにゆえこのような事態に至ったのか、直前までの記憶を手繰るが、思い当たる節が無い。
 ことのあらましはこうだ。
 日の沈んだ海に浮かぶゴーイングメリー号に唯一明かりの点るラウンジから声が消えた頃、キッチンの清掃活動を終えちょいと一息ついていたサンジの元へふらりとゾロが現れた。
 こんな時間にゾロが顔を出す理由など一つしかない。
 案の定、ラウンジのドアを開けるや否や発された第一声は「おい、酒」だ。概ね見張り台から用を足しにでも降りてきたついでに酒をくすねに来たのだろう。
 だが、夜食と共に今夜分の酒は既に渡している。大酒飲みのゾロに強請られるままどうぞどうぞと飲ませていては、この狭い船に積める量の酒などすぐに底をついてしまうので、日頃からペース配分に気をつけるよう口酸っぱく言い聞かせている。にも拘らずなくなってしまったのなら自業自得というもので、サンジとしてもここで甘やかすわけにはいかない。
「今日はもう店仕舞いだ」
「まだ沢山あんだろ、1本くらい寄越せ」
「あ、コラてめェ!」
 伺いこそ立てたものの、サンジの返答などお構いなしにずんずんワインラックに歩を進めるゾロの前に慌てて身を割り込ませる。
「駄目ったら駄目だ!」
 日中よりも多少控えめに静止の声を上げねめつけると、ゾロは不機嫌そうに舌打ちをし負けじとサンジを睨み返す。
 この船の船長にしてもこの男にしても、言葉で言って素直に聞くものなら苦労しない。彼らは本能のまま生きる野生児なのだ。言って駄目なら脚で躾けるまでのこと。
 これ以上踏み込もうものならいつでもやってやると脚に力込め凄みを利かせるサンジに対し、てめェを倒して目的を果たすと言わんばかりにゾロもやおら腰の刀に手をかけ威嚇する……のが、いつもの二人のお決まりの流れのはずだ。確かにそういう顔をしてた。
 だが今にも人を切り捨てそうな顔をしたゾロの徐に持ち上げられた片腕は、刀への軌道を辿ることなく真っ直ぐにサンジの顔めがけて伸びてくる。
 まさか変化球で張り手が飛んでくるかとサンジは後ろに身を引いたが、伸ばされた腕に暴力的な勢いはなく、サンジの動きを追った指先がぺたりと頬に着地したので、思いがけぬ感触に一瞬びくりと身が跳ね、逃げる足を止めた。

 そして今、その手がサンジの頬を撫でているのだ。
 思い返してみたところで何がどうしてこうなっているのか、やはりわけが分からない。あまりにも突拍子がなさすぎる。
「おい、ゾロ……?」
「酒は駄目なんだろ。だったらちょっと黙ってろ」
「いや、意味分かんねェぞてめェ……」
 ゾロが酒にありつけないこととサンジの頬を撫でることがどう繋がっているというのか。強請っても酒は出てこないことをすんなり理解してくれたのは幸いだが、一体そのマリモ頭の中でどんな信号が発されているのか、言っていることもやってることも意味不明で理解不能、対話を試みる最中もゾロの手は動きを止めることなく、サンジの白く繊細な肌をもちもちしている。
 その行為の意図が読めず目を丸くしたり顰めたり忙しいサンジに対し、ゾロの表情は依然真剣そのものだ。人を撫でるのにそんな顔をするやつがあるか。
 尤もサンジもサンジで、ゾロの愛撫ともつかない何かをおとなしく受け入れる筋合いなどないわけで、逃れようと思えば簡単に逃れられるはずなのだが、されるがままにされているのはその出鱈目な行為に呆気に取られてしまっているからに他ならない。獣の生態観察的好奇心も多少はある。
 頬に触れる手はその指先で肌をなぞり、軽く摘み、掌で包んでみたりと顔面を不気味に這い回った後、するりと滑って耳を一撫で、うなじに回ると襟足を弄び始めたので、再び体を震わせたサンジはそこでようやくゾロの手を掴んでその動きを制した。
「おい待てクソ野郎、いい加減にしろよ。おれのほっぺはレディのキッスを受けるためにあるんだ。野郎に撫で回されるためにあるんじゃねェぞコラ」
「うるせェ、邪魔すんな」
「あァ!?ふざけんなてめェ、なんのつもりだって聞いてんだよ、まずおれの問いに答えやがれ!」
 サンジの世迷いごとが右から左なのはいつものことだが、邪魔をされたことに不機嫌そうな色で声を上げたゾロは意外にもそれを振り解くでもなく、強引にことを進めようともしてこない。調子外れなその態度もサンジを困惑させるのだが、ゾロは静止したままなにやら難しい顔をサンジに向け、何かを考えるように視線を彷徨わせてはいるが、答える気がないのかはぐらかそうとしているのか、への字に曲げられた口からは何の言葉も出て来ない。
「おい、なんとか言ったらどうだ」
「…………わからねェ」
「あァ!?わかンねェわけあるか、てめェがしてるこったろうが!」
 ようやく得られた回答はあまりにも不明瞭で、サンジは堪らず声を荒げた。掴んでいたゾロの手を振り払った勢いのまま胸倉に掴みかかると、すかさず応戦したゾロも同じく胸倉を掴んでくる。
「わかんねェモンはわかんねェだからしょうがねェだろ!」
「だからわかんねェ意味がわかんねェんだよ!わかれよ!」
「だからわかんねェっつってんだろ!」
「そのマリモ頭は飾りかコラ!?」
「飾りはてめェのうずまきだろうが!無意味にぐるぐるしやがって」
「あァ!?バカにしてんのかマリモコラァ!?」
 わかんねェだらけの不毛な押し問答は噛み合うことなく、次第に主題が疎かになっていく舌戦にサンジは悪態をつきながらも少しホッとしていた。
 戸惑いの傍ら、まさかマリモ野郎、頭を打っておかしくなったか、それとも筋トレのし過ぎでとうとう脳味噌まで筋肉化してイカレちまったか、それでなければこいつはゾロに成りすました変質者かとゾロが奇行に及ぶ原因を考えていたのだが、このゾロは間違いなくいつものサンジの知るゾロだ。明らかにおかしくはあるので頭を打った可能性は否定できないが、医学的知識のないサンジにはその判断はできない。この頑丈で無神経な男が頭を打ったくらいでどうこうなるとは思えないのも事実なのだが、ともあれこのまま喧嘩に縺れ込めれば都合が良い。いつもの調子を取り戻している。本来こうなるはずだったのだ。打った頭をもう一度打てば直る可能性もあるし、一暴れしたら適当なところで切り上げてクルーに事情を話し、必要があれば医者に見てもらえば良い。
 ラウンジの下には倉庫を挟んで女神の眠る女部屋があるため、サンジとしてはこの時間の肉体言語指導はなるべく避けたいところではあるが、こうなってしまっては致し方ない。全てこの躾けのなってないマリモが悪い。眉毛を侮辱するなど言語道断、不届き千万甚だしい。
 だがこのマリモ、サンジの思惑通りに動いてくれるなら、そう苦労はしないのだ。
 
「おれは触りてェから触っただけだ、つもりもなにもあるか!」
 脚に力を込めいざ蹴らんとしたサンジはゾロの今更な回答に意表を突かれ、うっかり油断した。
「なっ……」
「おい、おれはちゃんと答えたからな、もっと寄越せ」
 脚に一瞬の迷いが生じた隙を突き、ゾロの両手はガッチリとサンジの顔を挟み込んできたのでさすがに焦った。
 弾かれたように胸倉を掴んだ手を解き、肩を押して引き離そうとするがどうにもこうにもこの筋肉の塊はピクリとも退きやしない。サンジとて人並み以上の腕っ節を自負しているが、手を戦闘に使わない主義のサンジの腕力ではゾロの鍛え上げられた肉体にはまるで通用しない。
「…ッいやいや待て、ちょっと待て!」
 何がしたくて何が起こってその目的は何なのか、サンジを真っ直ぐ見捉えるゾロの目を覗き込むも表情が読めない。
「うるせェ、黙ってろっつただろーが」
 考える暇も与えず身に降りかかる珍事に、これが黙っていられるかというサンジの心の叫びも虚しく、声を上げようと開きかけた口元にゴチッと鈍い衝撃が響いた。
「ンンッ!?」
 唐突な痛みに見舞われ反射的に閉じた目を見開くと、サンジの視界にギラリと光るこれ以上ないほどの大きさのゾロの瞳が飛び込んできた。胸倉を掴み合い睨み合うより一層近い距離にゾロの熱を感じ心臓が跳ね上がる。
 まさかとは思うが今サンジはゾロの口でその口を塞がれているのだ。なぜなにどうして頭の理解が追いつかない。
 状況的に見ればつまりサンジは今ゾロに口付け…所謂キスをされている、ということになるのだが、バカ野郎、こんなキスがあってたまるか。というかこんなもんキスじゃねぇ。ゾロの両手はサンジの頭をガッチリホールドしているのだから、ゾロはサンジの煩い口を塞ぐために使える部位を使っているだけに過ぎないのは明々白々、その証拠にこのキスのようななにかは口に口を押し付けているとしか言いようが無い代物で、本来のキスであればそこにあるはずの色気もクソも何も無いのだ。そしてその押し付ける力がまたやたら強いのだ。
「んんんっ!」
 サンジの抗議の声にならない声は鈍い振動となってゾロに届いているはずなのだが、それを素直に聞き入れるようなタマなら、だからこんなに苦労はしていない。
 前から横から力任せに押さえ込まれ、このままではサンジのまあるい頭は卵のように割れてしまう。サンジの頭を割ったところでトロリ濃厚な黄身など出てきやしない、どちらかというと黄身のような黄は外側にあるのだが、そもそも卵じゃないサンジは脳漿ぶちまけるのが関の山だ。そんなもの啜っても多分おいしくない。
 なんとか身体を押し退けようとしていた手でゾロの顔を挟み、引き剥がそうとするが、やはりそれにも動じない……と思いきや、口元の圧迫感が緩んだ束の間、ぬめりとした感触がサンジの唇を舐めた。そう、舐めた。こいつ舐めやがった。
「ひっ…」
 ゾワリと全身が粟立つ感覚に短い悲鳴にも似た声が漏れ、ゾロを掴む手の力が抜ける。
 怯んだサンジなどお構いなしにゾロの瞳は真っ直ぐサンジに向けられたまま、再びべろりとサンジの唇を舐め上げた。
「ぞっ…」
 声を上げようにも、その度ゾロに舐め取られ形を成さない。言葉を用いたところで素直に聞き入れてくれる気配は微塵もないのだが、何せサンジは今混乱の渦中だ。
「やめっ…む」
 次に口を開きかけた時、今度はこの野郎下唇に噛み付きやがった。
 甘噛み程度のそれにたいした痛みこそなかったが、少しずつ角度を変えはむはむと啄ばまれていては喋るに喋れず、隙間から熱を帯びた息が漏れるばかりで、その律動がまるで興奮して息が上がっているようにも聞こえ居た堪れない気持ちになる。
 照れも恥じらいも無くサンジを見据えるゾロの瞳から逃れるように目を閉じる。ゾロの感触を唇に感じる。なんだか顔が熱いのは先ほどからゾロの厚く熱い手に包まれているせいだ。このままゾロに食い殺されてしまうのだろうか。
 圧迫を和らげるべくもがいていたサンジの手は、いつの間にかゾロの肩に落ちていたので、無駄だとは思ったが一応ぽんぽんと叩くと意外にもゾロはそれに反応を見せ、サンジの唇をようやく解放した。
 その隙に深く息を吐き、乱れた呼吸を整える。
「……てめぇ…この…っ」
 相変わらず顔は固定されたままだったので、ジロリと睨みつけた視界はゾロで埋まっていたが、唇にかかる少し荒れた息がサンジの暴言を一度引っ込めさせた。
「…お前な…」
 ゾロと近距離で見詰め合ったまま一体この状況にどんな言葉が相応しいか、怒涛の展開にすっかり置いてきぼりを食らったサンジが思いあぐねていると、ゾロの右手がサンジの後頭部に回り再び唇が押し付けられたので、今度こそ確実に息の根を止めるべくゾロの首を絞めて押した。
 さすがの筋肉もこれは効いたようで、小さくグッと唸って顔を離す。サンジの頭を掴む両手はしぶとく生き残っていたが、多少力が抜けて楽になったので、一先ずまた勝手に塞がれることの無いよう先手を打ってゾロの口に掌で蓋をする。
「ちょっと待ちやがれバカ」
 それによりゾロの首は解放され本当に息が止まる自体には至らなかったが、ゾロは不機嫌そうに眉間に皺を寄せてサンジを睨んでいる。何も本気で絞め殺そうとしたわけではない。好き勝手しやがって、むしろ睨み付けたいのはこっちの方だとサンジは思ったが睨みを利かせたところでこの獣が止まるわけでもない。何故だか今日は喧嘩も出来ない。おかしなことになっている。そんな目でおれを見るな。
「てめェのしたいことはわかった。うるさくしねェから一旦落ち着いておれの話を聞け。いいな?」
 興奮した獣を宥め賺すように声をかけると、ゾロは存外素直にこくんと首を縦に振った。ついでにサンジの掌を舐めた。クソが。気味が悪いのでゾロの口を解放する。
「なんだ」
 ふてぶてしくも如何にも不満気な第一声にカチンと来ないわけがなかったが、うるさくしねェと言った手前ここで遮二無二怒鳴るわけにもいかない。サンジとて一度冷静になって思考を整理する時間が欲しいところだ。
 但し、こんなにもゾロの熱がいたるところから伝わる距離でまともな思考が働くかどうか定かではない。何せサンジはわりと頭に血が上りやすい方なのだ。

「…先に確認しておくが、てめェ今日頭打ったか?」
「あ?打ってねェよ」
 仏頂面をしながらも一応の聞く耳は持ってくれているようなので、対話が成立しそうな感触に安堵する。しかしそれもゾロが「待て」をおとなしく我慢できている間に限り、なので、この躾けられていない獣相手に説得を試み、早急に事態の解決を図らなければならない。
 頭打っておかしくなった説は真っ先に否定されたのは良かったのか悪かったのか、発症にタイムラグがあるのかもしれないので全く可能性がないわけではないのだが、それは後日専門家に任せることにするとして今はそう、ゾロの言葉の真意を探る必要がある。
「そーかそーか、そりゃ何よりだ。じゃ訊くがてめェ、さっき…あー…てめェが急にあれする前にだな、触りてェから触ったっつったよな…?」
「ああ、それがなんだ」
「つまりおめェのわからねェっつーのは、なんで触りてェかはわからねェってことか?」
「そうだ」
 なるほど、あの時は耳を疑う発言に面食らってしまったが、どうやらサンジの聞き間違いなどではなかったらしい。
 だがそれも妙な話だ。酒の入手に失敗してイラッときたなら喧嘩で発散すれば良い。なのにゾロは切りたくなった、ではなく触れたくなった、と言う。そしてその後実際にゾロが取った行動は、キスとは言うに言えないなにかだ。あわや食い殺されるかと思ったあれだ。
 未だ解かれぬ拘束はその指先で緩やかにサンジの黄身、もとい毛髪を弄んでいる。
「そりゃ……あれか?なんつーか、人肌が恋しくなったのか…?」
「?わかんねェ」
 人肌が恋しいなどという感傷的な感覚をゾロが持ち合わせているとも思えないので、この回答はまあ想定内だ。だったらもっと獣レベル…獣のレベルはよくわからないが、なるべくわかりやすく訊いてやる必要がありそうだ。
 ちなみに不思議そうに小首をかしげる獣は存外可愛いなどと思ってしまったのは全くの想定外だ。悪趣味が過ぎる。
「だから、人肌に触れるとよ…ほら、熱が伝わるだろ?」
「…ああ」
 甚だ不本意ではあるが、獣レベルにわかりやすく、ゾロの背中に腕を回し緩く抱きしめてやる。
 普段比較的体温の低いサンジだが、今はおかげさまで大分体が温まっているのでゾロにもうまく伝わったようだ。ピクリと身じろいだ腕の中のゾロは訝しげな顔をしてサンジを見ている。落ち着きの悪さに視線を逸らす。ゾロの熱気もまたサンジに伝わり、じんわりと汗が滲む。
「こうしてっと、心が落ち着くっつーか、あ、安心しねェか?おめェの触りたいってのはそういう……」
「あ?おい、さっきから血が上って仕方ねェ、ふざけんな」
 上ってるんだか下ってるんだか、嫌な位置に当たる硬い感触に実のところサンジは気付いていた。いつからそうだったのか、下半身など視界に入らない状態が続いていたため知る好もないが、抱きしめて体が密着すれば嫌でもそいつの主張が分かってしまう。
 嫌な気付きにさっと身を引こうとするが、サンジがしたよりずっと強い力で逆に腰を引き寄せられてしまった。もう片手は当然のようにサンジの頭を掴んで離さない。辛うじて話を出来る程度に顔の距離は保てているが、ゾロの苛立ち始めた様子を見るにそろそろ「待て」の効果も切れそうだ。焦りが募って鼓動が早まる。ゾロの熱い息がかかる。焦れた視線に焼き殺されそうだ。
「おい、まだか…」
「待て、わかった、興奮すんな、落ち着け。じゃあおめェ、日頃ちゃんと出すモン出してるか?溜め込んでんじゃねェか?」
「出るモンは出す、なんも溜め込んじゃいねェ」
 わかっている、ゾロという男は本能に忠実なのだ。いくら夢に向って脇目も振らずとはいえ男であれば性欲がないわけがない。溜まるものは溜まる。そして例えば仲間の目が気になって出来ない、残り香でバレないかしら、などという繊細な理由でそれを我慢するような男では間違ってもない。
 だが、だとしたら、サンジは困ってしまった。
 ゾロが突然このようなことをした理由なんて、どうせなんかちょっと人肌が恋しくなってたところに酒の入手も叶わず、ストレスが重なったのでその辺にいたサンジをおちょくって満たされなかった欲求をまとめて解消しようとした、程度のものだと見当をつけていたからだ。それが全くの見当違いではない、とは思う。
 だがここに来てイラッよりもムラッが先立ってしまったので、使えるものを使っておくかくらいの感覚でサンジを慰み物にでもしようとした……などとは出来れば考えたくなかったが、現状とゾロの股間が如実に物語っているので仕方が無い。男という生き物は悲しいかな、なんだかよくわからないタイミングでムラッときたりするものなのだ。船乗りの間では長い航海中、溜まった性欲を男同士で解消し合うのはまあ良くある話でもある。だからと言ってゾロは突っ込める穴なら、それが気に食わない野郎相手、つまりこの場合はサンジであってもなんでもいい男だったのかと思うと少しショックだったが、いや違う、そうじゃない、ゾロは何も溜めていないとハッキリ言ったのだ。定期的にスッキリしているのであればこんな衝動的に襲い掛かるような真似をする必要はないはずだ。ゾロだって獣とはいえギリギリ人間なのだ。言葉のコミュニケーションはこうして一応出来ている。仲間内の秩序を守れる程度に理性もある。ちょっとムラッと来たぐらいで折角保ってきた秩序をぶち壊すようなことが、いとも容易く行なえるのか?強姦趣味でもあるのか?嫌がる相手を無理矢理手篭めにするのが興奮するのか?相手は本当に誰でも良かったのか?
 考えたところで獣の思考など真人間(ドストレート)のサンジに分かるわけが無い。そもそもゾロ本人だってわかっちゃいないのだ。
 詰まる所、ゾロは今サンジとセックスしたいと思っている。わかることはただ、それだけだ。

 逆上せた思考がぐるぐる回る。
 ゾロはもう見るからに切羽詰った顔をして、鼻息荒くサンジの髪と背中を撫でている。
 サンジを映しっぱなしの瞳は欲情の色を滲ませ、それを寄越せと訴える。
 なんだか少し可哀想になってきた。男として興奮を押さえ込まなければならない場面はいくらでもあるが、それが辛いことだとサンジも良く知っている。刺激的な女性を乗せたこの船上生活でも何度も経験している。だがここまで追い詰められた経験は恐らく一度もない。
 ゾロはサンジの「待て」の声に従い、忠犬のように健気にも、必死に我慢しているのだ。

「ゾロ」
「あ!?」
「情けねェツラしやがって…ったく、」
「あ!?」
「しょうがねェからおれがなんとかしてやるよ。ただし、入れんのはナシだ」
 サンジの言葉を目の前のギリギリ忠犬が理解しているのかはわからない。
 「待て」の解除の言葉はなんだったけな、などと思いながら、サンジはゾロの首に腕を回し、唇に唇を落とすと、それが解除の合図であるかのようにすぐさまゾロの舌が唇を割って荒々しく口内に侵入してきた。ぬめぬめとした感触が力任せに彷徨うのでサンジがその舌に舌を絡めてやると、ゾロは乱暴に吸い付いてくる。
 歯があたるのもお構いなしに口内を犯され、キスぐらいもっと優しくしやがれ、と思うが獣にそれを求めるのは酷ってもんだとサンジはゾロのしたいようにさせてやることにする。このまま舌を噛み千切られたら、そんときゃ悪ィが殺処分だ。軽症程度なら見逃してやる。
「ん……」
 重なる唇の隙間からサンジが息継ぎをする度控えめに漏れる声は思いの外気持ち良さそうなのだが、生憎それはゾロの煩い鼻息にかき消されている。やはり色気もクソもあったもんじゃないが、先ほどよりよっぽどキスらしいキスをしているので上出来だ。
 手持ち無沙汰にゾロの緑頭を撫でてやると、そこはかとなくそれっぽい雰囲気にはなっている気がしないでもない。色っぽい声でも付けばそれなりのもんだ。
「ん……っは、んっ」
 舌、歯、唇の全てを使ってサンジを貪るゾロの口は、角度を変え、時に噛み、舐めまわし、覚えたてのキスのように不器用ながらも夢中で喰らい付き、与えられたご褒美を味わい尽くそうとしているようだ。実際覚えたてなのかもしれない。動きこそ不躾だが、絡みつく舌の熱はサンジを確実に溶かしていく。
 腰を撫でていたゾロの左手はいつの間にかシャツの裾を引き抜き、背中と脇腹と腰骨と手を這わせ、その形を感触を確かめるかのように撫で回している。普段は刀を握るゾロの硬く大きい手が無遠慮に素肌を這い回り、サンジの情欲を掻き立てていく。たまらず身を捩るとゾロの熱を持った主張と擦れ合い、もどかしさが募る。
「はっぁっ……」
 やがてサンジの唇が自由になると、ゾロの舌は熱の上った頬を舐め、首筋に降りてくる。こそばゆい感覚に思わず首を反らすとゾロがガプリと喰らいつき、甘く骨の刺さる痛みが走る。
「あっ…バカ、お前、痕付けんじゃねェぞ」
 シャツの開けた襟元に顔を埋めたゾロの視線がチラリとサンジを見やる。憎ったらしい生意気な眼光もこんな時には上目遣いがちょっと可愛くさえ見えて困る。

 しかしこの男、舐めたり噛んだりますます獣じみている。このまま全身丁寧に舐め回すつもりなのだろうか、そんなに舐めたら舌も乾いてバカになっちまうだろうと、焦れたのはサンジの方だった。
「おい…いつまでそうしてんだよ……」
「まだだ」
「っつってもてめェ、さっきからかなりキツそうじゃねェか」
 勝手を許したとは言え、おれがなんとかしてやると言ってしまったサンジとしては、さっさとなんとかしてやるべきなのではないかと思う。熱に浮かされ流されるまま快楽に身を委ねてどうする。一度吐き出してしまえばこんな馬鹿げた熱も引くはずで、今更考えることでもないが恐らくそれが一番の解決策だ。
 なによりこの行為があまり長く続いてはまずいことになる。ゾロの執拗な愛撫にサンジがもうとっくに興奮していることはその身がはっきり主張している。正体をなくす前にサンジ自身も早めになんとかしてしまいたいのだ。
 躊躇いがちにゾロのズボンに手をかけようとすると、途端、ゾロの舌がサンジのうなじをべろりと舐め上げ、強烈に増した刺激がゾワリと背筋を駆け上った。
「あッ!…んっ、ゾ、ゾロ、そこ…ちょっと…」
 下に伸ばしたサンジの腕は縋るようにゾロの頭を抱えに戻ってくる。
 それに反応してか、言い淀むサンジの言葉の続きを促そうとしているのか、ゾロは一度顔を戻しサンジの顔をまじまじと覗き込んでくるのでたまったもんじゃない。あからさまに感じてしまったことが決まり悪く顔を背けると、むき出しの耳をゾロが舐めたのでもう声が我慢できない。
「ひぁっ…!」
「ここがどうした」
 耳の裏に鼻を擦りつけ、うなじから襟足をさわさわと撫でながらしれっとそんなことを言う。おれに言わせるつもりか。一体どういうプレイをお望みなんだこの畜生が、だいたいてめェさっきまでの切羽詰った態度はどこいったんだ。
「ひっ…やっ…ちょ、あっ、や…やめっ」
「ここがどうした?」
 耳を食みながら喋ってくれるな!
 指と舌の刺激に加え息のかかる感覚がとてつもなく脳天から腰に響き渡りぐちゃぐちゃに掻き回す。
 崩れ落ちそうになる体をゾロに預けると、力の抜けたサンジの体をしっかりと受け止めたゾロはようやく攻める手を止め、満足そうに笑った。のだと思う。サンジにはその顔は見えないが声色が実に愉快そうで不愉快だ。
「お前、よくそんな弱点むき出しでいられんな」
「…アホ…ッ…こんなとこピンポイントで攻めるクソ野郎…ってめェしかいねェよ……」
 ゾロにしがみ付いたままのサンジはその肩に顔を埋める。乱れた呼吸を整えようと息を吸うと鼻腔に広がるゾロの匂いにくらくらする。ろくに風呂にも入りやしない野郎の体臭など臭いに決まってる。だが、嫌いじゃないことを今は素直に認めざるを得ないのが悔しい。
「なんか、お、おかしくなっちまいそうだ……」
 自分でも驚くほど素直な感情が口を付いて出てしまう。
 ゾロはいつまでたってもサンジの上半身、それも首から上の狭い範囲を撫で舐め回すばかりで一番刺激を欲しているところには触れもしない。焦らしプレイもいいところだが、ゾロにはきっとそんなつもりはないのだろう。だがサンジはまんまと焦らされ、先ほどからなんだかもうどうしようもなく、堪らないのだ。
 早く解放されたい気持ちが逸り、一度は引っ込めた手を再びゾロのズボンにかける。今度は躊躇うこと無くその手を直接下着の中に差し込み、中心に触れるとゾロがびくりと身を震わせた。生々しく濡れそぼった固い感触が掌に伝わって熱い。その熱をサンジの長い指が包み込み、緩やかに上下に動かしていく。
「っおい…待て、ッ出ちまう…」
 今度はゾロの声が焦る番だ。
「ばーか、出そうとしてんだよ……おれもしてェんだから、先にてめェ、さっさとなんとかされやがれ」
 ゾロを扱くサンジの手が性急さを増すと、その律動に合わせゾロも呼吸を荒げ、肩にかかる息が悩ましくサンジの身を焦がす。伝わる振動と感じる吐息にまるで自らを慰めているかのような錯覚を覚え、自身には触れてさえいないのにぞわぞわと快感が上ってくる。堪らず頭をゾロの肩に預け、空いた手で自分のベルトを緩めスラックスの前を寛げておく。
 口では待てと言ったゾロもサンジによる刺激を素直に受け入れたので、一刻も早く自身の熱を解放したい衝動と快楽に突き動かされるように夢中で扱き続ける。
 不意にサンジを抱きとめていたゾロの片手がサンジを髪を掬い、徒に撫で始めたのでいよいよ脳まで蕩け出しそうだ。頭皮と性的快楽が繋がるとは思えないのだが、不思議とそれが腰の快楽と溶け合いたまらなく気持ちが良い。
「あっ…ゾロ…それ、気持ちい…、ん……」
 サンジの蕩けきった声にやおら顔を持ち上げられ、ゾロと視線が絡み合う。さっきよりもよっぽど顔を背けたくなるほどあられもない表情をしている自覚は多分にあったが、サンジはもう顔を逸らすどころではない。
「…てめェ、ゾロ…っさっさと、イけよぉ…」
 こんなにもぶちまけてしまいたいのに、達するための満足な刺激を得ることができないサンジの腰は自然とゾロに縋り、布を隔てた熱と振動がもどかしくサンジを苛む。何が悲しくて他人の性器を扱いて自分は我慢を強いられているのか、誰も強いてはいないのだが、無性に自分が情けなくなってきた。
 閉じた目尻に自然と涙が滲むとゾロがそれを舐め取ってくるのでもう本当に勘弁して欲しい。
「…なんでっ…んなこと、すんだよぉ…」
 ゾロだってずっと息が上がっているのに、サンジが一生懸命手を動かしているのに、まだ余裕を見せるゾロに対しサンジはもうぐずぐずだ。こんなにも情けない様をよりにもよってゾロにまじまじと観察されている状況がより情けなさに拍車をかける。もう我慢も限界だ、バカ野郎!
「…舐めてェから舐めた…見てェから見てる」
「そればっかじゃねェか…っ、もう、触って…っイかせてくれよ、ゾロ……!」
「……ああ」
 サンジがせがむまま、ゾロがサンジの下着に手を差し込むと、ようやく訪れる快感にサンジの身はびくびく跳ねる。すっかり焦らされ熟れた身体は欲していた刺激を敏感に感じ取り、一際情けない声を上げあっという間に果てた。
 その時サンジの手に力が込められたので、続けてゾロもようやく達したのだった。



「おい、」
「うるせェ……」
「お前…」
「何も言うな……」
「そ」
「黙れクソバカマリモバカ」

 別にゾロをイかせてからでないとサンジがイけないわけではなかったのだが、なんとかしてやると言った手前、ゾロをなんとかしてから自分もなんとかしたかった、それは流されるままゾロの身勝手を受け入れたサンジの最後の意地だった。
 だがそれもあっけなく打ち砕かれ、終始ゾロに翻弄された挙句最終的には自ら激しく淫らに求めてしまうなど思い出すのも恥ずかしい結果に終わり、プライドまでへし折られたサンジの心はもうボロボロどん底になってもおかしくないのだが、終わってみれば意外とそんなに落ち込んでいない。
 溜まったものを勢いよく吐き出したサンジは、ぐずぐず崩れ落ちたままラウンジの床に転がっていた。
 その隣に腰を降ろしたゾロはというと、どことなく申し訳なさ気な顔をして拗ねる態度のサンジを顔を覗き込んみ、飽きもせずサンジの髪をやわやわしている。
 悪いと思うなら初めっからこんなことすんじゃねェと当り散らしたかったが、今はそれも億劫だ。そもそもゾロは悪いなんて思っちゃいない。あれは「したいからした」だけだ。1ミリくらいは本当に反省しているとも思う。あれは器用に嘘の顔を作れる男じゃない。

 ぼんやりとした頭でサンジは考えていた。
 したいからする、そんな本能に忠実なゾロは、触れたいという欲のままサンジに触れてきた。だが触りたいだけならば初めから、それこそサンジの身包みを剥いでやりたい放題しゃぶり尽くせば良かったのに、ゾロはサンジの「待て」を守り、ギリギリまで我慢していたのだ。おかげさまで物理的な捕食もされなかった。その後の行為については…今回に限って言えば「待て」のご褒美としてサンジ自ら差し出してしまった結果なので深く考えないことにするが、一つ一つを思い返せば、ゾロは決して強姦趣味があるわけではない…と思うし、嫌がる相手を無理矢理手篭めにしたいわけでもない…と思う。そして何より、誰でも良かったわけじゃないことを切に願う。

 いつまでもサンジの髪を弄るゾロを見る。さっきまでも散々撫で回していたというのに、この金髪が相当お気に召したのか、それとももしや慰めているつもりだろうか。だとしたら余計なお世話だ。
 恐らくサンジはうっかりこの獣に懐かれてしまったのだろう。
 一応、他のクルーに同じような無体を働かぬよう気にしておく必要はありそうだが、今のところ強姦報告はサンジの耳に届いていない。
 どうせこんな魔獣をうまく飼い慣らせる人間なんてそういやしない。多少自惚れている自覚はあるが、そんなところまでゾロは本能で嗅ぎ分けているのだとしたら大したものだ。いや本当に、大したものだ。

「ゾロ」
「なんだ」
「おれが先に風呂使うから、おれが出た後お前も必ず体流せよ。それと、服に着いた汚れは手洗いで落としておくこと。わかったか?」
「…おう」

 サンジが身を起こすと、名残惜しげに手を引いたゾロが床に転がったので、そのまま寝るんじゃねーぞ、とだけ言いつけてラウンジを後にした。
 夜風に当たり、冷えた頭が面倒くさいことを勢いで引き受けてしまったなという考えが一瞬過ぎったが、まあなんとかなるだろう。したいようにするのは何もゾロだけの特権じゃない。
 面倒くさくなったら海の藻屑にしてやるから、精々しっかり躾けられておけよクソ野郎。

END

(ちょこっと後日談)

 次の日のゾロはケロリとしたものだった。
 昨夜の出来事などまるでなかったかのように、当たり前の二人がそこにあった。
 サンジは一応、あれを躾ける覚悟を決めたとはいえ、TPOも弁えず急に盛り出したら堪ったものではないと多少物理的距離をとってはみたが、二人の間によからぬことが起こったと仲間に悟られぬよう、努めていつも通りに対応した。
 おかげで心配は杞憂に終わったのだが、サンジ以上に周りの目など気にしないであろうゾロは、一体どういうつもりであんなにもケロリとしているのだろう。ケロリという文字が顔に刻み込まれている。
 夢でも見たと思っているのだろうか。そんなことはサンジの方が思いたいくらだいだが、生憎あの強烈な出来事は鮮明に記憶に刻まれてしまっているし、なにより朝着替えていたらシャツの襟で隠れる位置にゾロの歯型が薄っすら残っていたので決定的に現実でしかなかった。
 あの時はなにか、ゾロの中の獣の部分?が覚醒?し、その本能のまま暴走して都合よくそのときの記憶はがすっぽり抜け落ちるのだろうか、とも考えてはみたが、やはり真人間(ストレート)なサンジにはギリギリ人間寄りの獣の思考など分かるわけないのだ。
 本人に訊いた所でどうせ「わからねェ」のだから、悪戯に本能を刺激するようなことはしないに限る。あんなこと思い出してもろくなことにならない。

 ちなみにその夜、不寝番のため見張り台に上っていたサンジの元にひょっこりと顔を出したゾロはいつもの仏頂面で「そのまま寝なかったぞ」と昨夜の報告をしやがったので、仕方なくサンジのちょっとずつ飲むはずだった酒を瓶ごと押し付けたら素直に男部屋へ帰って行った。
 他のクルーが寝静まった後現れたということは、一応集団行動における秩序を持ち合わせた獣であったことにサンジは安堵したが、念のためこれからは少し多めに酒を積んでおくことにしようと思ったのだった。

おわり